だからどうした

こんにちは、Tango245です。
サイバーエージェントの藤田氏の著書に、「当社がまだ黎明期だったころ、当時付き合いのあった堀江さん(ホリエモン)の会社にシステム開発を依頼した際、堀江さん本人にプログラミングを頼むと割増料金を請求されまして、、、」というようなお話が書かれていた記憶があります。「僕がやるんだから高いのあたりまえでしょう」と言われたと。(すみません、うる憶えです。)プログラミングはその人のセンスが出るので、「動けばいいだろう」というプログラミングと、美しいとまでは言わなくてもメンテ等で使い勝手まで考えてくれたプログラミングとでは後者のほうがありがたいです。

靴やスーツのビスポークも、できればブランドやサルトを立ち上げた本人にお願いしたいものです。本人じゃなくても本人が職人に厳しい目を光らせている状況でお願いしたいものです。逝去されたり、逝去されていないまでも引退して好々爺な感じではやはり残念です。例えば当店にはクレバリーのビスポークが、コークストリートにあった頃の品、一度閉店しロイヤルアーケードにて再開した頃の品、2001年に自分がビスポークした品、割と最近のビスポークと何足かありますが、古い品ほど美しいと思います。昔のものはどこかオーラがあります。ブルースを感じます。クレバリーが現役だった時代、彼がカネラとグラスゴーを鍛えていた時代、二人が再度立ち上げた頃の時代のものは真剣さが違っていたのではないでしょうか。

1999年、スミズーラのスーツを受け取りに行ったアントニオパニコのアトリエで、完成した品を着てみると、なぜか1着だけ首から肩のあたりが少しよろしくないようで、それまでにこやかにコーヒーを飲んでいたパニコ氏がいきなり職人を呼びつけて厳しく指示を出し、「申し訳ないがもう一回来てくれ」といわれ、お詫びなのかどうなのか、結構大きいナポリのオレンジピールの入ったチョコレート缶(日本なら2万円ぐらいするようなの)がホテルに届きました。それで半年後もう一回引き取りに行きました。のんびりした古き良き時代です。

ジャンニカンパーニャのアトリエでは、本人にサンプルを着せていただき、ここはこうで、ここはこうで、と説明を受けながら針打ってもらって、これで完璧ということで、そのサンプルを直してもらって結局結構な値段で購入させていただきました。「スミズーラとそんなに変わらない値段じゃないか」というと「スミズーラより手間がかかってしまったじゃないか」と返されました。

アルノ川を渡って二本目ぐらいの路地にあった頃のステファノベーメルの小さい工房では、仕事中の本人がエプロン姿で出てきて対応してくれました(これも確か1999年かと)。店頭にあったコンビのゴルフシューズのサンプルが格好良くて、サイズもあっていたので、それを購入し、それとともに同じ型、配色でフルグローブをスミズーラしました。あの大きな木の箱に、メンテ道具も一式入れてくれ、メンテの方法まで本人から教わるとは思いませんでした。

孤高のシャツ工房フィノッロはジェノバにあるわけですが、(今はわかりませんが)二回目以降はミラノまで出向いてくれ、カラチェニにて、採寸や仮縫い、納品の対応をしてくれました。ジェノバのシャツの工房がミラノのカラチェニで採寸というのもすごいですが、当時でも一枚8万円ぐらいしておりました。コスタンティーノ(当時のブランド名はスカルピーノ、製作はロンバルディ)で作って2万円、マトッツォで作って3万円の時代ですから、今、日本だと30万円級のシャツ(3枚頼むと税込み100万?)ということになりますからすごいシャツです。それで、採寸とか一通り終わると、「好きなネクタイ持っていけ」と20‐30本見せてもらい、「じゃあこれで」と一本選ぶとこちらのセンスが悪かったのか「これも持って行け」ともう一本追加してくれました。

このように当時は品物にご本人の手が入っているいい時代でした。堀江氏の感覚なら、割増料金どころか2、3倍ぐらい請求されてもおかしくないかもしれません。2年ぐらい前の雑誌で、キトンの職人の平均年齢が38歳で2000年頃の58歳からかなり若返ったと紹介されていました。この記事についての店主の感想は「あのころのキトンは確かに良かったな」であります。当時はインコテックスはまだイタリア製、フライのボタンホールもまだ手縫いの品がありました。イタリア製といってもタグ付けだけかもしれませんし、ボタンホール手縫いだからといって着心地が大きく変わるわけではありません。昔の話をツラツラと書いても「だからどうした?、それがどうした?」ですが、どうせ着るなら、ストーリーや思い入れのある少数精鋭で行きたいと思っています。身体は一つ、スーツやシャツを何着も同時には着ませんから。

 

大変恐縮ではありますが、当店は不定期営業で、また倉庫や自宅にて保管し店舗にない商品もありますので、原則予約制とさせていただいております。またすでにお買い上げいただいている場合もありますのでお手数おかけしますが、ご来店の際はメールか電話にてご連絡いただきますようお願いいたします。店主の予定がなければ土曜日曜祝日を問わず、また夜間についてもご対応させていただきます。ナポリの名店マリネラを真似てコーヒーをご用意しお待ち申し上げます。よろしくお願いいたします。*当店につきましてはこちらこちらこちらもお読みいただければありがたいです。