懐の深さ

こんにちは、tango245です。
ビスポークという行為、日本だと、自分もそうでしたが、靴好き、服好きが嵩じて、海外まで単身乗り込んでオーダーを敢行するという、「力の入った」感じが、とりわけ初回は一般的かと思います。またそれが、笑いあり、涙ありで、ネタにできたりするわけですが、欧州、特に英国では、靴や服をオーダーする層はもともと限られていて、服に興味があってもなくても、代々そこで服や靴をオーダーするのが慣例で、なんで(例えば、ロブでなく)クレバリーなのかと聞いても、「そんなこと聞かれても」という感じなのかと思います。

日本人なら、その双方にて気合でオーダーするか、そうでなければどちらにするかを結構考えているはずであります。それで両方がきつい場合は、1足目は黒のカーフの内羽根をどちらか(あるいはフォスター)でオーダーし、次はその逆のどちらかでほぼ同じタイプをオーダー、その次は、、、というような流れで一足、あるいは二足とオーダーしていくのが多分一般的かと思いますが、向こうの人は店は代々決まっているので、数足同時にオーダーするのも普通で、よく「ガットは初回は最低何足からだった」といった話が日本では話題になりますが、そういうのも向こうでは普通で特に話題にはならないのだと思います。

よって我々日本人のオーダーした品は、オーソドックスなものが多く、また手入れも施されている反面、結構履き込まれている感じです。一方欧州経由のものは、もちろん数自体が違うわけですが、色や形も種類が多く、またビスポークのデッドストックが少なからず出てきます。当店にもロンドンロブやパリロブ、クレバリー、ガットの未使用ビスポークがあり「この人、ビスポークしてなんで履かなったの?」とよく聞かれますが、定期的に4足とか注文していれば、履かない靴もそれなりに出てくるのかなと思います。

また海外のビスポークは、日本人だとなかなかオーダーできないような粋な品も多く、「どういう人がどういう目的で注文したのか」、「なぜこの仕様なのか、なぜこの素材なのか」、そういったことを考えたくなるようなお品も少なからずあります。

例えば下の写真のような感じです。多分スエードで統一されたり、茶のカーフで統一されていたりするよりも、こちらの方がいい気がします。さらにですが、一般にスエードだとフルブローグより、セミブローグの方が無難だと思いますが、そこをフルブローグで作っています。スエードで少し気になるのは甲の部分のしわの入り方が「パカッ、パカッ」と大きく波打ちがちなところ(特に最近のスエード素材)ですが、フルブローグにすることと、その部分をカーフとのコンビにすることで軽減させているのかもしれません。さらにコンビなら白のカーフか型押しかスエードでスペクテイター風にしがちでありますが、このように同系色でまとめたほうが、やりすぎ感もなく、まったりと履けるかと思います。またレイジーマンだとダミーのレースを付けたくなりますが、このパターンだと付けないほうが正解に思えます。この一連の感じは店側のお薦めというよりは本人の遊び心のように感じます。(すべて個人の感想です。)それで確信犯的にオーダーしておきながら、気に入らなかったのか、忘れたのか、一回も履かずにお蔵入り。本人と会ってお話を聞いてみたいものですが、聞いても「そんなこと聞かれても」とか思われるのでしょう。あるいは「内緒で」とウインクされるかもしれません。サイズが細め7相当のデッドストック、ヒールはもちろんフィリップズスペシャルです。よろしくお願いいたします。

 

他にも、黒と茶のコンビのフルブローグとか、フルブローグを外羽根にしてソールをわざと既製品っぽく武骨に作っていたりとか、いろいろな確信犯的逸品に出会います。普通、黒と茶のコンビはオーダーできないと思うのですが、その黒が少し緑っぽくて何ともいい感じなのであります。

スーツも同様で、普通なら避けておくような、光沢のある、間隔が広く、線が細いストライプ、それをダブルでラペルを広くしたりして、「こんな仕様でよく注文したなぁ」と思います。そもそも「ストライプの間隔が広く、線が細い、光沢感のある」素材を織りますか。百歩譲ってそんな生地があったとしてそれでラペルの広いダブルをオーダーできますか。しかもジャケットはパニコ、パンツはアンブロージです。ですが、店でほぼ毎日そのスーツを見ていると「多分このパターンしかないんだろうな」と思う一方で、「パニコしか無理じゃないかな」とあらためてパニコの凄さを感じます。織元と着道楽なオーダー主の遊び心に雲上サルトの技術が詰まった熱いアイテム、我々では多分オーダーできません。身長170㎝前後で重めのお客様、ぜひよろしくお願いいたします。

当店、海外の有名どころの現行品については、生意気かつ僭越ながら「見切った感」をもっており、別注品も手掛けているわけですが、そんなこんなで、こういう懐の深さ、引き出しの多さは、雲上サルトや工房の古い逸品から、もっともっと学んでいかなければと思っております。

大変恐縮ではありますが、当店、クレジトカードに対応できておらず、もし何かお買い上げいただける場合は現金決済となってしまいます。ご不便おかけいたしますがご容赦いただきますようお願い申し上げます。また不定期営業であり、倉庫や自宅にて保管し店舗にない商品もありますので、原則予約制とさせていただいております。すでにお買い上げいただいている場合もありますのでお手数おかけしますが、ご来店の際はメールか電話にてご連絡いただきますようお願いいたします。店主の予定がなければ土曜日曜祝日を問わず、また夜間についてもご対応させていただきます。ナポリの名店マリネラを真似てコーヒーをご用意しお待ち申し上げます。よろしくお願いいたします。*当店につきましてはこちらこちらも読みいただければありがたいです。*コーヒーのご提供につきましてはコロナ蔓延を鑑み、現状自粛させていただいております。