こんにちは、欧州の逸品を通して皆さまにハピネスを届けるビスポークの古着店、tango245です。
過去3回、ビスポークあるあるについて書きましたが、基本的に「向こうがいい加減やん」目線になっているかと思います。ですが洋品の歴史はあちらのほうが長いわけで、こちらがわかっていないだけかもしれません。なので郷に入っては郷に従うべく、もう一度考えてみたいと思います。
最近はあまり見かけませんが、時折雑誌とかでビスポーク特集が組まれたりしますよね。上質な素材、、、研ぎ澄まされた職人技、、、羽織っているのを忘れてしまうかのような、、、。自動車雑誌でよく引用される「シルクのように吹き上がるエンジン」のような文章が続きます。ワインの記述で言うと、「エレガント」や「スマート」、「気難しい」や「儚い」とかいうやつです。正直こういった単語が出ると要注意です。ウソではないけど本当でもない、大人の事情が絡んでいます。
取材は経費かけて行っている以上、いい感じに仕上げなくては担当者が怒られます。誌面で懐疑的な論評を張ると「お前何しに行ったんや」となるので、必然的に誌面はいい感じに仕上がるわけです。店主も海外出張はおかげ様でよく行かせてもらったのでよくわかります。ただ店主の場合、この忖度がそのうち面倒になり、「(現地に)行ってもわからないが、行かないともっとわからない!」とかわけのわからない理屈をこね、仕事も適当にサルト巡りをしたり、ロンドン出張のはずなのに、なぜかホテルがナポリだったりと、本人も量子もつれの状態で、のんびりしたいい時代を過ごさせてもらえてラッキーでした。
すみません、話を戻します。ビスポークの世界は雑誌に書かれているようなあんな甘美な世界ではありません。そこは認識しておく必要があります。そもそも欧州でスーツや革靴を着る(履く)ような人は少ないですし、ましてやそれらをオーダーする層はごくごく限られた富裕層です。そんな一部の人たちが代々、同じサルトで定期的に数着単位で仕立てているインナーサークルに、我々日本人が一張羅を仕立てに行って相手にされますでしょうか。日本のセレクトショップの大量注文で潤った経緯もあり、行くと快く記念撮影とかはしてくれますが、実際仕立てているのは日本から修行に来ているアウトワーカーさんだったりしませんかねと。いい素材や職人さんは、そのインナーサークルに食い込んで認めてもらって初めて回してもらえるものだと思います。なのにいきなり行って、思っていたようなのが上がってこなくて怒るのは、ある意味、わがままとも言えます。
なので何事も急がば回れで一つずついきましょう。貴殿が初めてオーダーするなら、息子さんやお孫さんまで視野に入れませんか。そうすれば三代の付き合いになりますので、序列はかなり上がります。なので貴殿は屍として店選びまでとし、あとはご子息に繋いでいくと。我々が子孫に残すべき財産は現金ではなく教育、もっというと服育と食育なのであります。すでに親父さんがバブルの頃にでもオーダーされていればその旨伝えてみましょう。顧客名簿を調べてくれて、(嘘でも)思い出した顔をしてくれると思います。これでインナーサークルの入り口には立てているんじゃないでしょうか。
そしてゆくゆくは目立たないけど上質でこじんまりとした仕立て屋と出会いたいものです。ビスポークの際は、単に服を仕立てるというだけでなく、その外側まで全部味わいたいので、有名どころは経験としても押さえたいです。ですがその上流として、あまり知られていないところを確保しているという構図はスマートではないでしょうか。これは英国での話ですが、店主が昔、女王陛下の仕事をしていた頃(8割嘘です)、同僚で仲がいいのが1人いまして、そのきっかけが英国が結んだある条約の名が彼の姓だったわけです。それでその旨を聞いてみると「それ、俺のおじいちゃんだけど、なんで知ってんの?」、「日本人はみんな知ってんの?」と聞かれたので、「まぁ知ってるやつは知ってるはずだけど、どうかな?」と。彼によると日本人に聞かれたのは初めてらしく、それ以降仲良くなった次第です。自分にしてみれば、(一応)理系にも関わらず、共通一次試験で無謀にも社会を世界史で受けてしまい、その結果40点で第一志望を断念せざるを得なかった黒歴史。ですがその条約名は覚えておりました。こんな形で帰ってくるとは、やはり人間万事塞翁が馬であります。それでその彼にどこでスーツ仕立ててる?と聞くと、代々オーダーしているというこじんまりとした仕立て屋を教えてくれました。「ヘンリープールとかハンツマンとかアンダーソン&シェパードとかは?」と聞くと、「ああいうところは観光地!too expensive!」と。実際そこの価格は有名どころの半額以下でした。自分も1着お願いしましたが、当時はセヴィルロウの大所のタグの魅力には抗えず、そちらに流れて、、、。彼とはやはり毛並みが違います。
そんなこんななんで、観光客丸出しの店主ですが、実際、あっちに行く度にちょいちょい顔出してると向こうも顔を覚えてくれますし、おまけをくれたり、食事に誘われます。店主もシャツの雲上工房でネクタイを3本つけてくれましたし、気鋭のサルトは2pを3pにしてくれましたし、大御所のサルトからは上がりが大御所の思っていたのと違ったらしく、「すまなかった」とオレンジチョコの豪華詰め合わせがホテルに届きました。
思わぬ出会いもありました。ミラノのサルトに行った際、ハリウッド女優の写真があったので顧客なのかと聞いたところ、「今来てるよ」、「なんなら紹介してやるよ」です。もちろんこちらは望むところですが、向こうは迷惑かと思います。ですが自分もインナーサークル(の末席の中の末席)だったのでしょうか。10分ほどご一緒させていただき、そして帰り際、自分の肩に手を当て「see you」と言ってくれました(その時のジャケットは売却済です)。最高でした。
ビスポークの洋品について、店主はブルゴーニュワインみたいなものと呼んでいます。皆さまはどこのワインがお好きですか。店主はブルゴーニュワインが1番好きです。ですがこのブルゴーニュワイン、割とハズレが多くないですか。というかハズレがデフォルトじゃないかさえ思ってしまいます(個人の感想です)。平均点で言えばカルフォルニアのピノの方が安定していると思います。ですが、またどうせハズレんじゃないの?と思って飲んだブルゴーニュが稀に場外ホームランをかっ飛ばすことがあります。まさに跪くというか、口が開いたまま閉じれないというか、、、というかです。これがあるので店主はブルゴーニュワインはやめられないわけなんです。ビスポークもまさにこれで、ビスポークあるあるよろしく、厄介なことが多いのですが、おまけや出会いを含め、時々場外ホームランをかっ飛ばしてくれるので自分はやめられないのでしょう。皆さまもぜひこの沼に足を踏み入れて、背骨にまで響く芯食った感触を体験してみてください。空振り三振やデッドボールの際は当店が骨を拾います。
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