別注靴

 

靴もタックセックあたりまで遡るとさすがにちょっと履く場所や機会を選ぶことになりますが、一般的には古い靴ほど「格好がいい」ように感じます。その「格好がいい靴」の木型は、本家が保存していると思うので、それで作ればいいと思うのですが、そういう気配はなく、現在の靴は、トゥの形等の細かいディテールは継承していても、全体感が違う気がいたしております。

問題は、そのかつての美しいフォルム、昔の限られた天才職人のスキルによるものなのか、木型とある程度の技術があればできるのかということであり、この辺りを日本の若い靴職人の人と話したところ、後者に近い感覚であり、では何故できないのかと聞くと、「見たことがない」、「ゆっくり考える時間もない」、「親方のスタイルを踏襲している」、「効率や採算を優先してしまう」と言うような答えでありました。

それで、再現できるのなら、と別注品の企画をスタートさせました。当店にある、コークストリート時代のクレバリー、御本人が現役バリバリだった頃のステファノベーメルやマリーニ、今は亡きローマの名店ガット、店主が現行品では最高峰と考えるパリロブのビスポーク等の靴を現行品や既製品と比べながら研究し、余計な装飾や細部のディテール等での差別化には走らず、既製品や最近のビスポークでは出せない、素で美しいフォルムを目指し、ビンテージの道具を使いながら、一針一針、丁寧に縫い上げました。

そして当店、いわゆる丸縫いにこだわっております。丸縫いというのは、外注を使わず、一人の職人が最初から最後まで製作に携わることを言います。例えばですが、靴づくりの花形は底付けで、アッパーの製作は外注に出すことも割と一般的のようです。ですがアッパーを外注に出してしまうとソールとの一体感が出し難くなります。「こう吊り込みたいので、こうアッパーを縫っておく」ということができなくなるためです。少なくとも連携は悪くなります。既製品のレベルでは関係ありませんが、フォルムを攻め込んでいく場合は非常に重要な要素になります。

またその削り出したフォルムを崩したくないので、フルのビスポークはできればご遠慮いただいております。サンプルでサイズをお試ししただき、(若干の調整は行えますが)その木型でお作りする受注生産が基本となります。製法は、グッドイヤーではなく、ハンドソーンで出縫いまでハンドで行います。そもそもハンドソーンでないと作れないフォルムであります。またインソールは伝統的な製法の物に加えて、ハイテク素材を使用し、フォルムはそのままにクッション性を高めた物もご用意しております。

一般に靴のビスポークは、今や非常に高価なうえに出来上がりで失望することも多く、なかなか手強い代物です。「待っている間が一番幸せ」、とも言います。一方で既製品はどうしても効率性や在庫リスクを勘案せざるを得ず、製造工程や素材で簡略化が否めません。当店の別注靴は、両者のいいとこ取りを目指しております。はじめにシェイプをご提示し、それをサイズ展開することで出来上がりのイメージを担保、一方でビスポークと同水準、あるいはそれ以上の手間をかけて制作しますので、既製品のように大量生産を前提とした製造工程の効率化、簡略化はいたしません。そんな商品を既製品並みの価格でご提供いたします。採寸を行うビスポークに比べ、履き心地は若干劣るかもしれませんが、その履き心地は試着時に確認はできますし、履き心地の優先順位が高いお客様は、クッション性を高めたものをお選びいただければ、スニーカー並みの快適さをご提供できます。

スーツ同様、当初1年間はお試し期間とさせていただくのですが、サイズ展開にあたり、まだ起こしていないサイズについては、お客様の足型をある程度ではありますが反映させていただいた木型を起こさせていただきます。より一層のいいとこ取りが期待できます。カールフロイデンブルグ等、ビンテージの素材もストックしておりますが、在庫限りでありますので、お早めにお考えいただければと存じます。