Tango131~136、シニスカルキのシャツ

ミラノの中心部から少し歩いた高級住宅街の中にあるシニスカルキ。入り口の管理人さんに軽く挨拶し、エレベーターで上がって、呼び鈴を推し、ドアを開けてもらうと、シャツ生地の在庫量に圧倒されます。店主は90年代後半から10年近くお世話になりました。

ここのシャツもフィノッロ同様、とりわけハンドの比率が高いわけではありません。手縫いによる甘い縫い方からくる動きやすさの追求とか、逆にコストダウンのためにミシンを使用とか、どうもそんなわかりやすいことではなく、普遍的な何かを感じます。手縫いがどうとかミシンがどうとか聞いても、多分先方は意味不明なんでしょう。

また生地を選んでいると、同じようなシャツを10数枚束ねて持ってくる客に時々会います。業者でもなさそうで、どうも修理で持ち込んでいるようです。多分ですが、同じようなシャツではなく、同じシャツだと思われ、使用人が主人のシャツの修理に持ち込んでいるのだと思います。驚くのはそれらのシャツが、修理が必要なほど、どれもよく着こまれていることです。当然、他に違う色や違う仕様のシャツがあると考えるべきで、それらも同様に着こまれているとすると、その主人はいったいどういう着方をしているのだ、となり、一日に何回も着替えているとしか思えません。きっと欧州の貴族はそういう着方をしているのでしょう。

よく「ガットは初回4足から」とかが日本では話題になりますが、欧州の貴族は、当たり前ですがこれが日常で、「頑張って1枚(1足)注文」とかは、初めからないのでしょう。逆に言うと日本人でよかったとも言えます。イタリアの庶民は一生感じられない貴族の日常を体感できるわけなので。