Tango100~105 、マリオ・フォルモサ

現地ではそれほどでもないのに、なぜか日本では有名というブランドは結構あります。逆に現地では有名なのに日本では知名度がいまいちというブランドも結構あります。日本側からすれば、無名のブランドと交渉する方が、好条件で取引できる確率は高くなり、結果的に上記のような状況が生まれるのでしょう。

フォルモサのビスポークは後者の典型例と言えます。創業者のマリオ・フォルモサは1945年生まれ。ベネトンをアメリカで大成功させ、ミハエル・シューマッハを見出し、FIチームの監督でもあったフルビオ・ブリアトーレのテーラーとして名を馳せたマエストロで、アントニオ・パニコとほぼ同年代、レナート・チャルディより一回り下の大御所で、工房もナポリの一等地に構えているのですが、日本ではあまり知られていません。

よく000四天王とか言いますが、「スーツ、四天王」等で検索してみますと、日本ではクラシコ四天王としてキトン、アットリーニ、ベルベスト、イザイア、ナポリ四天王としてキトン、アットリーニ、アントニオ・パニコ、ダル・クオーレとたいていは記されています。ビスポークでも、パニコ、ピロッツィ、チャルディ、ソリートらしく、フォルモサはどの四天王にも登場してきません。実際押し出し感等はそれほど、という感じです。

ですが、当店のフランスやイタリアの細いルートからは、「フォルモサあるけど」と引き合いがよくあり、フランスなんかでは、あまりナポリナポリしているのは避けられるためか、個人的な体感では、パニコよりフォルモサを好む顧客が多いような気がします。工房はそんなに大きくない(なかった)ですし、ビスポーク(受注生産)ですので、よく引き合いをいただくということは実際にそれだけ人気があったということになります。

ただ店主も、日本の雑誌が情報源で、DNAはそれでできていますので、あまり前のめりにはなれず、「I am afraid but let me decline」とかなんとかお茶を濁してきたのですが、今年になって、フォルモサのビスポークを委託でお預かりすることになって(即完売)、「これは」と思うようになりました。押し出し感等はありませんが、とにかく着心地が優しいわけです。これはクラシコ四天王とか言ってる、行ってる場合じゃない、と。

それで機会を伺っていると、別のフランスルートから、「フォルモサ11着あるけど」と言われ、「どっち?」、「マリオ」、「同じ人のビスポーク?」、「もちろん」、「知り合い?」、「そうやけど」、、、、ということになって全部押さえました。11着のうちグレーだけで8種類、そのグランデ―ションは、その辺の生地メーカーのバンチを超えています。オーダー主はかなりの猛者で、当店で言うところの「筋がいい物件」であります。

サイズが体感54~56ぐらいで、店主が着ると名探偵コナンの世界ですが、それでも一応試着させていただきますと、やはりSomethingを感じずにはおれません。「真実は一つ」なのであります。