Tango012~021、クレバリー

ここ数年、オーダー品の価格の上昇は激しく、有名どころの工房では、ビスポーク1足100万円超の価格設定も今や珍しくありません。更なる円安が進展すれば、この傾向はさらに加速するかもしれません。10年後、仮にロンドンロブのビスポークが15000ポンドで1ポンド300円なら一足450万円、シューツリーが別売りで100万円とかいうレベルになってしまい、ビスポークなど「夢のまた夢」の世界であります。

もともと英国での靴や服のビスポークは、限られた階級の人たちの物で、これまで、我々、日本の一般市民が買えていたことがどうかしていただけ、なのかもしれません。実際アメリカ人もロシア人も滅茶苦茶儲けた人が大量に注文する世界だと思いますし。いい夢見させてもらったと思うべきかもしれません。

ですが、この世界を一度知ってしまうと後戻りはできないのも事実で、なんとか折り合いをつけてでもレベルを落とさず、やっていきたいものですが、価格の面もさることながら、素材の枯渇や職人の高齢化、工程の簡略化も問題です。高価格を受け入れお願いしても出来上がりがよくなければ立ち直れません。進むも引くも痺れる状況です。

とはいえこの世の中には、ビスポークを注文することが仕事、のような富裕層が多数いて、現在、そういった方が逝去される年齢に差し掛かっております。ご子息が洋品に全く興味がない場合も少なからずあり、時折、思わぬ形で未使用品が市場に出たりします。写真の品は、クレバリーのそういった、未使用のビスポーク品になります。

またこういった逸品と現行品の品質の格差は広がることはあっても縮まることはないと思われますので、楽器や車で既におこっている、ユーズド品と現行品の価格の逆転現象が、洋品の世界でもどこかで起るのではと考えます。未使用品であればなおさらであります。逆転が無くても、思わぬ出物も、数年もあれば一巡してしまうと思われますので、ユーズド価格がまだ平和な今のうちに一通りは揃えておきたいものです。