別注スーツ

 

スーツはビジネスマンの商売道具で、求められるものは、相手に対して自分をよりよく見せてくれること、自分に対しては軽くて動きやすいこと、と当店では考えております。フォルムについては、相手から信頼感や安心感を得たいわけですから、奇をてらうようなものではなく、「普通に格好がいい」のが望ましいと考えます。そういう意味で、店主はジャケットやスーツというものは、ほぼほぼ60年代のロンドンで完成しているのではないか、という気がしております。ファッション業界は、売るために、毎年少しずつどこかを変えて出すわけですが、そもそも完成している状況から、よりいいものを生み出そうとしても無理があり、結果的には少しずつ改悪させてしまっているのではないかと思います。そしてその改悪の振り子が振り切った時点で修正が入って、クラシックに回帰するという繰り返しなのかもしれません。ということで当店別注のスーツ、ジャケットの基本スタンスとして、その改悪の軸を巻き戻していくことから始めまております。

一方で格好が良くても、着ていてストレスを感じるようでは、商売道具として論外ですので、軽さとともに動きやすさも重要視しております。持つと重くても羽織ると軽い、万歳をしても二の腕が引っ掛からない、手首上げても襟が浮かない、袖が上がらない等々、パターン、いせ込みの量を研究、さらにアイロンワーク等を駆使し、世界最高水準の動きやすさと軽さを追求しております。

結果として当店の別注品は、60年代のアンダーソン&シェパード、あるいは比較的最近のヘンリープールの佇まいをベースとしております。ですがその一方で動きやすさ、軽さも追求しておりますので、見た目や着た感じが、どこかナポリ物のようで、パニコやアンブロージに通じる感じがいたしております。そもそもナポリのスーツは英国人の避寒地としての側面から派生した面もあると聞いておりますので、もともと両者に大きな違いはないのかもしれません。

また一般論としてですが、英国やフランスのスーツはビスポークの古いものでも手仕事の部分は意外と少なく、手仕事はイタリア、もっというとナポリ特有の伝統工芸のような気もします。ですが近年のナポリのスーツも資本の論理が先行し、手仕事の領域は減ってきております。フルハンドといっても、定義はあいまいで、実際ミシンは結構使用されております。ミシンを手で動かせばハンドという解釈もあるようです。勿論手仕事がすべてに勝るわけではありませんので、一概に、いい/悪い、は言えませんが、今も消費者目線の店主はフルハンドは文字通りフルハンドであってほしいと思っております。

当店のフルハンドは100%フルハンドです。いい/悪い、は別として、例えばパンツのポケットの袋の部分まで手縫いであります。フルハンドを謳う以上、そこまでやります。通常フルハンドと呼んでいるレベルは、当店の場合セミハンドの範疇に入ります。それでいて価格を、当店の100%フルハンドは通常でいうフルハンド、当店のセミハンド(通常でいうフルハンド)は巷のセミハンドと現状同程度で押さえております。既に数をお持ちのお客様は、一度当店の100%フルハンドをご検討ください。世界中探してもそんなサルトリアはほとんどいないと思います。またセミハンドも一般に言うフルハンドで、型紙も起こしますし、仮縫い、補正も行い、芯地もハンドで作ります。どちらも当初1年はお試し価格でご提供いたしますが、少量生産で数は限られますので、よろしくお願いいたします。

また当店、有名サルトや有名メゾンのビスポーク物を商品として多数取り扱っており、色々と研究済みであります。〇〇風といったご要望にも対応可能ですし、当店在庫を素材に、サイズの手直しやモーダ系に振ったリノベーションもお受けできます。例えば全部バラして「56サイズのスーツを44サイズに作り直し」等も積極的に検討いたします。実際に作り直したサンプルもご用意しておりますので、ぜひご覧いただければと存じます。