別注ネクタイ

 

最近は締められる機会も減り、肩身の狭いネクタイですが、当店では、逆に、毎日締めたくなる気分になるような、毎日スーツを着たくなる気分になるような、そんなネクタイを出していきたいと考えております。

ネクタイも100円ショップに売っているぐらいですから、その気になれば果てしなく安く上げられます。一方で本物を作ろうとすると大変で、例えば、7ピエゲだと70-80 cm四方の生地が必要となり、ウールでもロロピアーナクラスだと数千円後半からそれ以上、上質のシルクだと1万円以上してしまいます。またミシンで走ればすぐ縫えてしまいますが、本物のハンドロールで縫えば4,5時間かかります。よってセッテピエゲをフルハンドで制作すると単純に原価だけでも2万円前後、これにメーカーの利益やセレクトショップの利益が加算されると小売価格は軽く数万円半ば、あるいは後半の値付けになってしまいます。一方でパーツは生地と縫い糸、製造工程もハンドメイドなので設備関係は針のみ、あとは人件費で、シンプルすぎてコストダウンの余地はありません。

ネクタイで有名なのは、ステファノリッチやブリオーニのプリーツタイ、アンジェロフスコやキトン、タイユアタイのセッテピアゲ、エルメスやかつてのアルニスのプリントタイといったところでしょうか。どのお品も魅力的ではありますが、当店といたしましては、日本人らしくシンプルに、かつ基本的には「芯地なし」で企画しております。ネクタイの起源は17世紀、クロアチア兵が首に巻いていたスカーフが原型(そういう意味ではネクタイも軍物と言えるのかもしれません)といわれますので、「芯地なし」は、より原型に寄せた物ともいえます。その芯地なしで得られるものは軽やかさ、失うものはボリュームですが、そのボリュームを確保するため、当店では、試作を繰り返し、生地にもよりますがセッテピエゲの2倍の14ピエゲで作るようにしております。

芯地がないので裏地もなく、結果として縁の処理が必要になります。手間がかかるのはこの部分のハンドロールです。多くは「三つ巻き縫い」という縫い方で、生地を二回折って縫い上げる方法で、これは多少の裁断の心得があれば対応できます。一方当店の処理は、実際に「こより」を作りながら糸を通していく方法で、エルメスでは「ルロタージュ」と言われ、専門職人が担当する処理を施しております。この「ルロタージュ」、手間はかかりますが、剣先の見た目が違ってきます。また当店では剣先だけではなく、織り込んでいる部分もすべてこの手法で処理しており、これでネクタイにコシを入れております。

またネクタイのパーツは、大剣、なかはぎ、小剣の3パーツで構成したものと、大剣、小剣の2パーツで構成したものがあります。3パーツのネクタイで(ミヌッチ氏のような)小剣ずらしをすると、なかはぎと小剣の接合部が見えてしまいます。当店も小剣ずらしを意識しておりますので、2パーツ使用で、接合部は襟の中に隠れるよう設計しております。

ネクタイにルロタージュを施しているメーカーは、世界でも片手程度なのですが、これをセッテピアゲの倍の14ピエゲで製作、しかも一人の職人さんが最後まで作る丸縫いで作るため、生産数量は限られます。14ピエゲですので、生地は70cm x 120cmと使用量も通常のネクタイの約4倍、つれてハンドロールの長さも長くなり2m近く施しております。

スペックばかり書いておりますが、一番重要視しておりますのは、握った時のギュッと言う感じの生地の質感とノットの収まり具合で、イメージで言うと大昔のタイユアタイになりますが、現行品ではアンジェロフスコを越えたいと思っております。当初1年は1万円台でお届けいたしますので、ぜひ一度お手に取っていただければと思います。